六日目の今日は中間講評を行いました。バリエーションに富んだ作品が並び、いい感じです。もちろん、形の狂いなど気になる点はありますが、「人物は初めて」という方がほとんどという事を考えれば皆さんなかなか健闘していらしゃると思います。とても良い雰囲気ですね。
さて、中間講評では個々にご自分の作品を離れた距離で見直して頂き、ご自分なりの感想を言って頂きました。興味深かったのは「授業中に頑張って描いたところが上手くいっていない」という事を気にされていた方が数人いた事です。例えば、ある方の絵では絵の中の人物の左腕がとても上手く描けている、一方、右手は絵具が形についていない。聞いてみると右手はかなり時間をかけて頑張ったが、左手は殆ど手数を入れていないで出来てしまったという事でした。実はこういう事はよくあって、上手く描けている方は、空間的な動きや形態などいくつかの要素が絡んだ状態でストンと記憶に残り、感覚的に理解していたので捉えられたのだと思います(こういう感覚を、クロッキー力といいます)。上手くいかなかった右腕は、視野が狭くなって肌の明るさ暗さだけを見ていたのではないかと思います。肩から下がった二の腕は肘でねじりの動きが入り、垂直から水平方向へと空間が動きます。そうした動きは、肌の明るさ暗さや輪郭的な形を見ているだけでは到底追えない形です。上手くいかないと思う時は、「何かを見落としている時」。そう思って時には筆を休め、じっくりと人物を見つめ直しましょう。時には、描かずに「見るだけ」も有効です(この時に、ちょっと席から移動して、遠くから見たり、左右など違った方向から確認すると新たな発見がありますよ)。
そして、今回の中間講評では、「肌は肌色でなくてはいけないか」というひとつの問題提起をさせて頂きました。人物を描いていると、肌は肌色にきれいに表現したいという方が多いですね。もちろんその事自体は間違ってはいません。ただ、肌をきれいに表現したいという事は、パレットできれいな肌色を混色して画面に置くという事とはちょっと違うのです(油絵の具には混色しなくてもジョンブリアンという絵具がありますが、受験生だった時にはその絵具は絵具箱から追放すべき色と言われていました 笑)。例えば背景などは「壁の色をそのまま再現しなくても良いですよ」と言うと、結構皆さん自由に好きな色を置く事ができるのですが、何故か肌は決まって肌色を置いてしまいます。でも、果たしてその肌色は、あなたの絵の中で魅力的に見える肌色でしょうか・・・。すでに画面には地塗りから始まって、ある色調が出来つつあると思います。その色調の中で、魅力的と思える色を考えてあげる、ちょっとイメージを巡らしてあげるだけで絵はずっとおしゃれになると思います。
さて、先週に引き続きHさん作品より。
先週のクロッキーから、もう少し時間を描けての制作ですが、アプローチとしては先週のクロッキーとほぼ同じ考え方で制作して頂いています。ただし、今回はポール・デルボーのドローイングをお手本にして頂いています。Hさん、モデルよりもデルボーのドローイングの方を長く見つめられていました。結果的に絵具や線の扱いが、前回のクロッキーよりも表情の幅がでてきて人物の顔の表情も良いですね。最近絵画コースの授業の中でお話ししている事ですが、「絵のイメージを持って描き、モチーフは参考程度に見る」という事を実践されている良い例です。