2010年8月20日金曜日

予習版!短期講座第3弾「古典技法を学ぶ」:その4

今回はいよいよ固有色を着けていきます。これまで、絵具はテンペラのホワイトしか使ってきませんでしたが、ここで初めて有彩色を、それも油絵具を使っていきます。

油絵具、と聞くと初めての方は少し身構えるかもしれません。でも、ここからは特に難しい事がありません!前回までの作業でしっかりとデッサン的に形が捉えられていますから、着色するような気持ちで、薄く透明色を塗布していきます(グレーズ技法。グラッシとも言う。薄くのせるのがポイント!あくまでもこれまでの下地を活かして下さいね!)。また、油絵具にはもともと絵具自体に不透明なものと透明なものが存在します。今回は、下地のテンペラ絵具による描画層をしっかり活かすため、茶系で透明度の高い「イタリアンピンク」という絵具をパンの部分に使用しました。



いかがでしょう?ぐっとリアルなフランスパンに近付きましたね〜。

同じような要領で、背景と紙の部分にも油絵具の透明色を置いていきます。紙は白ですが、やや蛍光色の青みがかった紙の特長を出すため、また、パンや背景の褐色を際立たせる効果も狙って反対色にあたる「ウルトラマリン」を紙に塗布しています。



画面上ではお伝え出来ないのが残念ですが、油絵具が画面に塗布されると油の効果により画面に深いツヤがもたらされる事が実際に描いていると体感出来ると思います。(透明度の高い油絵具を塗り重ねた深い艶のある奥行き感は、ルネッサンス期のリアルな奥行き感のある表現には無くてはならないものでした。)

この後、油絵具を塗布した事により形のメリハリが弱くなってしまった部分や、より表情を描き込みたい部分などに再度テンペラのホワイトと油絵具を使って手を入れていきます。実はここからが、テンペラを使った「混合技法」の醍醐味のひとつ!本来なら油絵具を塗った上に、水溶性の絵具はのりませんが、テンペラは卵を使っていますので、卵の油分の乳化によって水を使って薄めて使っているのに、油絵具の上に加筆が出来るのです。そして、速乾性ですので、更にその上からまたグレーズ・・・そういった事を数回繰り返していきます。

なお、通常油絵具は乾きにくく、それゆえ初心者の方に描きにくいと敬遠される事もあるのですが、「混合技法」では油絵具を薄く、かつ速乾性のある画溶液を使うため乾燥時間が非常に早く、スピーディーに作業を進める事が出来ます。

さて、見本は未完のまま、この予習版ブログも今回で終了します。ブログ上では、今回の講座の授業内容を簡潔に、わかりやすく(を心がけて)書いていますが、テンペラ絵具やテンペラ絵具の使い方、または混合技法にはこの他にも様々な方法があるようです。実際の授業では、描画のちょっとしたテクニックやテンペラ絵具や混合技法で描かれた作品の魅力などをお伝えする予定でいます!

2010年8月10日火曜日

予習版!短期講座第3弾「古典技法を学ぶ」:その3

前回は、テンペラ絵具での描写についてご紹介しました。今回は、固有色を着けていく前に、ホワイトの絵具で描画していく際のコツを少しお話ししておきます。

前回の2枚目の図版のところでお話しした中に、「細かい線のタッチで描かれている」という部分があります。なぜ線のタッチで描くかというと、線の疎密で明るさ暗さをコントロールしたいからです。単純に明るいところは線の密度を濃く、暗いところは密度を低くする事で「明~暗のグラデーション」を作る事が出来ます。図版で言うと(下記の図版を参照)、パンの下に敷かれている紙の、もっとも明るい部分はかなり線が密になっていてタッチも見えないぐらいになっていますね。逆に、パンの中など中間~暗色の部分はタッチがしっかり見えて、下地が透けているのがわかります。

いきなりべた塗りで、下地を潰してしまわずに、下地の暗さを活かしながら「明~暗」をコントロールする、という事が描画のコツです。

しかし、実際に筆を持って描写してみると、この「細かい線のタッチ」というのが初めての方にはなかなか難しいのです。小雨のようにサッサッと引けると良いのですが、最初は難儀だと感じる方が多いと思います。そういう時は無理せず、細かい部分は「点描する」・広い面は「大きめの筆を使う」・グラデーションする部分は「ぼかし筆を使う」で対応していきましょう。



上の図版の背景部分は大きめな筆を使っています。この面積を線描で埋めるのは大変ですのでこういった部分は大きめな筆でOKです。ただし、この場合でも、濃い絵具で塗りつぶしてしまうのではなく、下地を透かすようにしているところがポイントです。



ぼかし筆:たたき筆と記載される場合も。画面上で絵具を軽くたたいてグラデーションさせていくのに使います。ぼかし筆にもいろいろありますが、今回の講座ではお貸しする予定でいます。

前回、この回で「固有色を着ける」と予告してしまいましたが、それは次回に・・・。

2010年8月6日金曜日

予習版!短期講座第3弾「古典技法を学ぶ」:その2

前回は、テンペラ絵具についての性質や今回の講座についての概要をお話ししましたが、今日のブログからは、いよいよ実際の授業の手順についてお話ししていきます。

その前に前回のブログを読まれた方から「予習版ってどういう事?」とご質問がありましたので、お答えしておきますね。一部の方から古典技法をやってみたいというお話を聞いていましたので、であれば「テンペラ」あたりが扱いやすくかつ面白いのではないかという話になったのですが、一部の古典技法ファン以外の方にとっては、「テンペラって何?」「古典技法ってどんなもの?」「どんな授業なの」という感じですよね。受講を考えていらっしゃる方には、予習的にこんな手順でこんな事をやるということをお大まかにイメージして頂きつつ、かつ「テンペラ」や「古典技法」に予備知識が無い方にも具体的に興味を持って頂ければ・・・という思いで記事を書いております。もちろん、きちんとした内容は講座内でじっくりお伝えしていきますので、あくまでも予備知識的に読んで頂ければと思います。ここで理解出来ない部分があっても大丈夫ですよ!

では、実際の授業予習版!始めます!
今回の授業では、いきなり絵具を使って本画を制作するという事はしません。しっかり事前にデッサンし、それを本画にトレースするという手順を踏みます。



この状態で、ある程度出来上がりのイメージをしっかり掴んでおきます。(この部分でデッサンに自信が無い!という方にはもちろん、お手伝いさせて頂きます!)

これを、事前に地塗りを施しておいた画面に、トレーシングペーパーなどを使ってデッサンを鉛筆などで転写します。このサンプルでは、深い緑をジェッソを使って地塗りしています。

ここからいよいよテンペラの出番です!
地塗りを施した画面にテンペラ絵具のホワイトを使って、明るい形を描き起していきます。イメージとしては白い紙に黒い鉛筆で描いていく通常のデッサンの逆をしているような感じで、暗いトーンの中から明るい形を描き起していきます。



描き込まれたパンの細部を見ると、細かい線のタッチで描かれているのがわかると思います。実際に描いて頂くとわかりますが、描いたところがあっという間に乾いていくので、どんどん描き進められます。どんどん描き込んで・・・この状態までテンペラ絵具のホワイトのみで描いていきます。

次回は、いよいよ固有色を置いていきます。

まめ知識:テンペラのみならず、油彩を使った場合であっても、このように描き出しにホワイトの絵具を使ってもののボリュームや空間を掴んでしまうところが古典技法の特長のひとつです。

2010年8月3日火曜日

予習版!短期講座第3弾「古典技法を学ぶ」

暑い日が続きますね〜!アトリエでは、あまりの暑さに8月は授業をお休みをされるという方もいらっしゃいますが、ご自宅でも熱中症・夏バテなどお気をつけてお過ごし下さい。

さて、9月開講の短期講座「古典技法を学ぶ」の告知をHPに掲載しました。それに伴い、本ブログでは今回の授業内容を予習的にお伝えしていく予定です。ご興味ある方、是非お付き合い下さい。

今回描いて頂くのは、↓ です。




上の画像は今回制作する作品のサンプルです。(未完)
なかなか上手ですね。講師が描いているのですから当たり前ですが、実はこれはテンペラという技法に助けられてもいるのです。ということは・・・??

使用している画材は、皆さんおなじみの「油絵具」に加えて「テンペラ絵具」というものを併用して使っています。絵具の歴史は、画面に色材をくっつける材料の歴史でもあることは、多くの方がご存じだと思いますが、テンペラ絵具というのは、ヨーロッパで油彩が誕生する以前に使用されていた絵具で、油の代わりに卵を使って顔料を練っています。今回の講座では、いくつか面白い山場を用意していますが、そのひとつとして、卵を使ったテンペラ絵具を手作りするところから体験して頂く予定です。

テンペラ絵具とは、卵を乳化させたもので絵具を練ります。つまりマヨネーズのような状態です。マヨネーズは水にも溶けますし、油にも溶けますね。マヨネーズ状になった卵に顔料を混ぜると、水にも油にも溶ける絵具が出来上がります。水で薄く溶いたテンペラ絵具は水彩絵具のように乾きが早く、どんどん描き進める事ができ、そして、油絵具と交互に使う事が出来ます。また、油絵具以上に鮮やかな発色の良さもその魅力のひとつといえるでしょう。有名なボッティチェッリの「ヴィーナス誕生」はテンペラを使用して描かれています。

今回の授業では、テンペラ絵具の水とも油とも相性の良い性質を使った、テンペラ絵具と油絵具のお互いの良さを上手く利用した<混合技法>を学びます。今回は「〜技法を学ぶ」ですから、ふたつの絵具を効果的に使い分ける方法や描画のポイントなど技法的な事もしっかり学んでいきたいと思います。その内容については、次回のブログより少しずつお伝えしていきます。