2010年6月7日月曜日

「短期講座 人物を描く」五日目 下地の効果とクロッキー力

授業では、加筆指導を適宜行っています。作品の方向性が上手く行っていないとき、生徒さんが悩まれているときなど講師が手を入れていくのですが、この加筆指導、生徒さんの度肝を抜いてしまう事がままあります(笑)。例えば、顔をせっかく描き込んでいたのに、大きく赤い絵具を置かれてしまったとか、背景から人物の中まで同じ絵具を置かれ人の形が見えづらくなってしまった・・・など。皆さん、かなり衝撃を受けられるようです。

こういった「驚かれてしまう加筆指導(笑)」は主に仕上がりをイメージして、上に置かれる絵具の事を考え、その絵具を効果的に見せるための「下地」の絵具を置いている時です。絵は「層」(絵具の重なり)で出来ています。皆さんは美術館や画集などで「仕上がったもの」しかご覧になる機会が無いので、なかなか絵が「層」で出来ているという感覚が理解しづらいでしょう。でも、この「層」を支える「下地」があるかないかで、上に乗ってくる絵具の見え方は随分違うものになるし、色調・空間の複雑さも生まれるのです。初めにキャンバスに地塗りをして頂いた事と同じですが、この中盤での下地を置いていく行為は、それをより複雑に、空間に絡めながら絵具を置いていくという感じになります。この辺りはなかなか感覚として難しいところですので、実際に手を動かしながら感覚を掴んでいただくしかありません。

さて、今回の短期講座では、いくつかの画集をお見せしながら、具体的に画面作りについてお話ししているのですが、マネやルノアールなどの絵を見ていると、タブロー(完成作品) でありながら、クロッキーを見ているような感じがします。良い形を獲得するために、画面の中で何度も繰り返しクロッキーをしているような、そんな印象を受けますね。

Hさん作品より
今月から遅れて入ってきたHさん。普段ガッシュを使っていらっしゃるHさんは、今回もガッシュとチャコールペンシルを使ってのクロッキーを試して頂きました。Hさんは対象物を正確に写すという事より、半具象的な表現に興味を持ち出してきていらっしゃって、最近の制作でもそうした方向で模索しておられます。今回のクロッキーでは、線をゆっくり引く事・線に表情を付ける事などに注意して頂きました。残り3回ですが、どういう作品が出来るか楽しみです。



Uさん作品より
Uさんはこの短期講座の中でも、もっともキャリアの少ない方で油彩もこれが3枚目です。これまでは10号程度の画面で制作していらっしゃいましたので、初めての15号、かなり大きく感じられている事と思います。戸惑う事が多くてなかなか手が入りづらいようですが、下地を塗りつぶさずきれいな色調が保てています。難しい事ですが、細部にとらわれ過ぎず画面のいろいろな場所見目を向けられると良いですね。





短期講座も残すところ後3週間。皆さん、一緒に頑張りましょう!